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 東京は高層ビルが立ち並び、日々発展し続ける近代都市という側面がある一方、江戸の情緒を垣間見ることのできる歴史をもった顔も見てとることができます。下町にできた東京スカイツリー周辺などは、まさにそのことを象徴しているでしょう。東京スカイツリーから歩いてすぐのところに、江戸の風情を感じさせる路地が、まだ沢山残されています。
 わたしは、東京生まれの東京育ちであり、ふるさとは東京ということになります。地方の人からすると「東京の人はふるさとがなくてかわいそうだ」ということばを耳にすることがありますが、大きなお世話だと思っています。たしかに近代都市東京をイメージするとふるさとという言葉とは相容れないところがあるのかもしれません。しかし東京の情緒的な顔を思い浮かべていただければ、そこには、まさにふるさとを感じさせる世界が広がっています。わたしの住んでいるところは新宿区の北部で牛込というところなのですが、この界隈にも江戸情緒を感じさせてくれる街並みが多々残っています。
 街並みと共に、情緒を感じさせてくれるのが、町名です。新宿区では、細かい区割りで昔ながらの町名が健在です。散歩をしていると100メートル歩けば違う町名に出会います。多くの町名は江戸時代から使われていたものであり、町名から歴史的な情景を想起することができます。新宿区では、特に牛込や四谷にこうした多くの町名が残されており、町名数は90余にものぼります。また、神田地区をもつ千代田区や、日本橋地区を持つ中央区なども細かい区割りの昔ながらの町名がまだだいぶ残されています。
 ただし、このように多くの町名数をもつところは少数派です。多くの自治体では、町の統廃合により町名数を減少させてきています。たとえば東京23区で最も町名数が少ない荒川区は、たったの7つにまで削ってきました。なぜなのでしょうか。ひとつには、町の区分を広域化し、丁目-番地-号、という数字管理により住所表記をした方が、住所管理がしやすいということがあると思います。もうひとつには、町を大括りとしていき、鉄道の駅名などとリンクさせることで、その町がどの辺りにあるかを、誰にでもパッと判りやすくするためには便利だということがあるものと思われます。
 これらは非常に合理的な考え方であり、経済的にも優れたものだとは思います。しかし、その一方で、江戸の情緒がどんどんと失われてしまっているということも考える必要があるのではないか。たしかに合理性という観点からすれば町の名前などどうでもよいことかもしれませんが、風情、情緒ということを片隅に追いやることは、心の潤いを無くすということになりかねません。合理性と情緒性をどう共存させるか、今の時代に生きる者としての大きなテーマなのではないでしょうか。